2022年6月10日 第663号
早くなることも遅くなることもなく進んで、決して止まることがなく、目に見えなくて、誰にでも平等なもの…それは時間。
【時間って何?】
「見ている鍋は煮えない」。鍋を火にかけ、じっと見ていると、煮えるまでの時間が長く感じる。ところがその間にニンジンや玉ねぎを切ったり、サラダを作ったりしていると、あっという間に鍋が沸騰している、そんな経験ありませんか?鍋が煮えるのは同じ時間なのに…。
そこのお母さん。子供に「早く、早く」って言っていませんか?忙しいお母さんの眼には、子供が着替えたり、靴を履いているところをまるでスローモーションで見ているようにのっそりと感じてしまいます。それは年を重ねているだけ色々な経験があり、ある程度予測を立てることができるからだと言います。
状況や年齢、性格や精神状態によって、同じ長さでも、長くも短くも感じる時間。この概念はいつ生まれたのでしょう。古代の人は、太陽が動くにつれて、木や岩の影が動いたり長くなったり短くなったりするのを見て、“時間”というものがあることに気が付きました。人類が初めて作った時計は日時計だと言われています。
メソポタミア文明ではすでに農業が行われており、どの植物の種をどの時期にまけば良いか、いつ収穫すれば効率的かということを考えるようになりました。時間は生きていくために大切な概念となったのです。
紀元前六世紀の哲学者タレスは、その年にオリーブが豊作となることを見抜き、予めその地域のオリーブの搾油機を全部借りて大儲けしました。時間がお金を生んだのです。神の領域である時間を“売って”お金にする。アリストテレスはこの行為を神への冒涜と考えました。現在では時間は、農業のみならず経済にも大きな影響を与えているのです
【体内時計ってあるの?】
シーンとしている時に限ってなるお腹。ばつが悪いけど、体は正直ですね。腹時計が鳴る、なんて言います。体内時計はあるのでしょうか?
人は常に時間と共にしています。いつも行っていること、例えば駅まで歩いて何分かかるか、お風呂掃除にどれぐらい時間がかかるのか、陸上や水泳をしている人は、今、走ったり泳いだりした100メートルのタイムが大体わかります。
体内時計があるのは、人間だけではありません。1750年ごろ、スウェーデンの植物学者リンネは花時計を作ろうと試みます。花時計と言っても、文字盤が美しい花で飾られているものではなく、花が開く時間で時刻を知るもの。既に、花は光を感じるから開くのではなく、体内時計のコントロールによるところであることが実験で確かめられていたのです。六時に咲くオウゴンソウ、七時に咲くセンジュギク、八時に咲くヤナギタンポポ、九時に咲くノゲシ、
十時にしぼむヤブタビラコ、十一時に咲くアマゾンユリ、十二時に咲くトケイソウ、一時にしぼむチャイルディングピンク、二時にしぼむルリハコベ、三時にしぼむホークピット、四時にしぼむセイヨウヒルガオ、五時にしぼむシロスイセン、六時に咲くオオマツヨイグサ。この花時計、実際の時刻との誤差はなんと三十分程度だったとか。
人間の体内時計は、というと個人差があるものの二十四時間より若干長いそうです。そのため、日にちを重ねていくと、実際の時間とズレが生じてしまう。なので、朝起きたら朝日を浴びてしっかり目を覚ますと体内時計が整うそうです。良い目覚めを!
【日本人と時間】
日本人は時間にとても正確です。電車が時間通りに来るのは当たり前。お店の開店時間も、何かを作って納めるのも、大きく崩れることはありません。でもこれは最近の事。実は日本人は時間にルーズだったそうです。江戸時代のお雇い外国人は「日本人は時間にルーズすぎて困る」と言っていたほど。大正九年(一九二〇)、「時間をきちんと守りましょう」と生活改善を進める目的で選定されたのが『時の記念日』。日本で最初に作られた時計は、六六〇年、中大兄皇子がつくった漏刻(水時計)だと言われています。楼閣建物の一階に設置された水槽に飛鳥川の水をため、その深さで時間を計り、二階の鐘を鳴らして時を知らせていました。楼閣は一辺の長さが約二十二・五メートルの平地の上に約一メートルの石を組んだところに建っていたという大掛かりなものでした。ちなみに銀座にある和光の時計台は、直径が二・四メートル、時針は〇・七五メートル、分針は一・一七メートルもあるそうです。
「草木も眠る丑三つ時」。江戸時代の時間は、十二支で表していました。子の刻は午前零時の前後二時間。丑三つ時は午前二時です。午の刻は正午。♪お江戸日本橋七つ立ち~♪という歌がありますが、午前零時を九つとして一刻過ぎるごとに八つ、七つ…となるので、日本橋より旅に出る七つとは、午前四時のことです。旅人は、ここから京都までの約5百キロメートルを十三日かけて歩いたそうです。奈良の大仏様が立ち上がったら、身長は約三十メートル。東京までお歩きになったら、七時間で着いてしまうのですって。
「光陰矢の如し」だから時間は大切に使わなくては。「時は金なり」とも「時ひとを待たず」とも言うし。でも「時と場合」によることもあるし、「時に従う」と「時に遇えば鼠も虎になる」ことがあるかもしれません。どうぞ充実した時間をお過ごしください。
(ミイ)
※参考資料/
・『アダム・スミスの夕食 を作ったのは誰か?』カトリーン・マルサル著 河出書房新社
・『時の科学(ブルーバッ クス)人と時間の5000年の歴史』 織田一朗著 講談社
・『鹿男あをによし』万城目学著 幻冬舎
・『広辞苑』岩波書店
・厚生労働省HP
・セイコーミュージアム 銀座
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