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流氷を探す旅

2026年6月12日 第759号

 東京では春一番が吹いて、暖かさも感じられるようになった2月末、厳寒の地北海道・紋別空港に向かって飛び立ちました。ずっと流氷を見たいと思っていたので、その夢を叶える旅が始まりました。私は寒さと雪が苦手なので、なかなか決断ができなかったのですが、北海道の冬の厳しさを目の当たりにする前、昨秋の終わり頃にツアーを予約しました。
 頭の天辺から足の爪先まで、厳寒対策を万全にして出かけたのですが、紋別空港を出たとたんに、拍子抜けしてしまいました。氷点下を覚悟していたにも拘わらず気温は4.3℃で、オホーツクとしては記録的な温かさだそうで、積雪もあまりなく、おかげですいすいとバスに乗り込むことができました。

《流氷のない流氷岬》

 空港からバスで紋別港に向かいましたが、その車中で、流氷はここ数日の暖かさと風向きによって既に遠くに行ってしまい、全く見られないと知らされ意気消沈です。着岸した流氷が離岸するのは想定していましたが、港のはるか彼方に行ってしまい、その欠片さえも見られないというのは予想をしていませんでした。
 流氷が見られないと分かっていても、ツアーですから仕方なく、予定通り流氷砕氷船ガリンコ号に乗り、単なる遊覧船と化した船で、ひたすら揺れに身を任せていました。

《蟹の爪を持っての見送りダンスは空しく…》
《砂浜に取り残された流氷》

 少し南東の網走港に行き、流氷砕氷船おーろら号に乗り、前日同様にただ揺られているだけでしたが、港の一部には、陸地に吹き寄せられた流氷が留まっていました。それを見た時には、これが最初で最後の流氷になってしまうかも知れない、という不安がよぎりました。その後凍結の可能性があるオシンコシンの滝に行きましたが、こちらも残念ながら夏季と変わらず、爆音を立てて流れ落ちていました。期待外れが重なり、残念な旅になってしまいそうなので、車窓から見えるキタキツネや鹿を、唯一の収穫にしようと自分を納得させ始めていました。
 しかし次の宿泊先、知床半島斜里に向かう途中で、ポツリポツリと沖合に流氷の欠片が浮かんでいるのが見え始め、翌日に一縷の望みが持てました。
 因みに夕飯には鹿の肉を使ったカレー等の料理があったのですが、全く臭みがなく美味しく頂きました。

《取り残された流氷の上に乗ってみました》
《沖合に浮かぶ流氷の欠片》

 その日は知床半島全域に悪天候が予報されていました。朝から横殴りの雪で、バスに乗り込むのも、支えがないとバランスを崩してしまう程の暴風でした。そんな中、知床半島の付け根辺りを横断して東側の羅臼に向かいました。かなりの積雪の中で峠越えをするので、それでなくても不安があるのに、途中で複数の車がクラッシュしているのを見て、更にその思いは増大しました。道路脇の木々は分厚い雪に覆われ、さながらモンスターのようで、北海道の自然の驚異を否が応でも実感させられました。
 しかしベテラン・ドライバーのお陰で無事に羅臼港に着き、すぐに小さな船に乗り込みます。この日が流氷を見られる最後のチャンスでした。

《もっと雪深い所もありましたが、吹雪で不鮮明になりました》

 やっと船の脇に漂う流氷の塊を見る事ができました。海一面を覆いつくす流氷を想像していたので、その一割にも満たない規模ですが、待たされ続けていた分、例え小さな塊でも、見られた喜びは大きく、子供の様に手を叩いて喜びました。冷たい雪混じりの雨に、帽子・ダウンコート・防寒パンツ・手袋、ブーツ、全身びしょ濡れになり、氷と雨でツルツル滑るデッキを、ものともせずに、写真を撮り続けました。
 流氷は海面から出ている部分は雪の様に白いのですが、海面下の部分は透き通った淡いブルーに見え、とても美しいと思いました。また大きな波に揺られてプカプカと漂っている流氷は、どこか寂し気でもありました。時々船に流氷が当たるのですが、ゴツンゴツンと低く鈍い音がして、その音は今も耳に残っています。
 現地のガイドによると、地球温暖化の影響を受け、着岸する流氷の量や時間は、どんどん少なくなっているそうで、今後10年以内には、着岸しなくなるのではないかという予測もあるようです。

《本当に流れている氷・流氷に出会えました》

 船は小さな港を進んで行きました。突堤には吹雪の中、大小様々な鳥が羽を休め、また多くの鳥が海面近くや上空を舞っていて、ヒッチコックの映画『鳥』さながらでした。船員から、越冬に来る天然記念物のオオワシとオジロワシだと教えられ、新たな興味が沸いてきました。オオワシは大きく翼を広げて飛ぶ姿は雄大で、オジロワシはその名の通り、尻尾の辺りが白くなっています。カモメやカラスも一緒に、漁師や船員が与える餌に寄ってきて、流氷の上で大きくて鋭い爪で押さえながら、盛んに肉を引きちぎっていました。2005年にユネスコ世界遺産に登録され、山奥以外でそれらの鳥達を撮影できるのは珍しいそうで、多くの外国人がやって来るとの事。また車窓からは、木の上に止まっている絶滅危惧種で世界最大のフクロウのシマフクロウを何度も見ることができました。
 それらの豊かな生態系のキーポイントは、栄養が豊富で植物性のプランクトンの繁殖を促している流氷にあるそうです。
 最初はただ景色としての流氷を探すのが目的の旅でしたが、珍しい鳥達との出会いがあり、また一方では自然環境の厳しさや危うさを体感する旅にもなりました。
 今回の旅では流氷砕氷船に乗って、流氷を砕きながら大海原を進むという夢が叶わなかったので、再挑戦したいとは思います。しかし一方では、厳冬の北海道で大自然を相手の旅が余儀なくされるのを体験して、今後はますます難しくなるように思います。(まーちゃん)

《オオワシの鋭い爪が印象的でした》
《大きさの対比・カラスとオジロワシ》

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