特集記事

交通の難所を体感 信越本線旧線・廃線跡「アプトの道」ウォーキング

2026年9月25日 第766号

 江戸時代から中山道の難所として旅人の行く手を阻んできた群馬県と長野県の県境、碓氷峠。この非常に険しい山道は、鉄道の時代を迎えた明治時代に入っても、日本屈指の難所であり続けました。時は過ぎ、平成9年、長野新幹線(現在の北陸新幹線)の開業に伴って惜しまれつつ廃線となったこの区間は、現在、緑豊かな遊歩道「アプトの道」として生まれ変わり、訪れる人々に当時の記憶を語りかけています。今回は、かつての鉄路を歩き、日本屈指の交通の難所を肌で体感してきました。

アプトの道はここからスタート!

 アプトの道は、高崎駅から電車で約30分のJR信越本線横川駅付近から、旧熊ノ平駅の間を歩く、片道約6㎞の遊歩道です。急な坂が続く交通の難所として知られた信越本線横川~軽井沢間(碓氷線)の旧線の廃線跡を整備したもので、トンネルや橋梁がそのままの形で残されています。鉄道は急な坂に弱いため、碓氷線の旧線は日本初のアプト式鉄道として整備されました。遊歩道の名前の由来にもなったアプト式鉄道とは、レールの間に敷いたギザギザの歯形レールと、車両の床下にある歯車を組み合わせて、急な坂道を安全に上り下りする仕組みのことです。希少なアプト式鉄道であった旧線は、昭和38年に新線への切り替えにより廃線となりましたが、数多くのレンガ造りのトンネルや橋梁が当時の姿をとどめており、平成5年には鉄道施設の一部が国の重要文化財に指定されました。

アプト式鉄道の線路
レンガ造りのトンネル

平成9年に長野新幹線(現在の北陸新幹線)が開業して在来線が廃線になった後は、碓氷峠から列車の姿は消えましたが、平成13年に横川駅~めがね橋間がアプトの道として整備され、さらに平成24年に旧熊ノ平駅まで延長されて往復約12㎞の遊歩道が誕生しました。現在は数多くのハイカーや観光客が訪れる人気の廃線跡になっています。

廃線跡を進んでいく
碓氷峠鉄道文化むらを横目に進みます

 在来線を乗り継いで、午前11時に横川駅に到着しました。アプトの道の道のりは往復12㎞と長く、道中には「峠の湯」のレストランがあるのみなので、記者は横川駅前のおぎのや本店で早めの昼食をとってからスタートしました。碓氷線で活躍した列車を中心に、多くの鉄道車両が展示されている碓氷峠鉄道文化むらを横目に見ながら進んでいきます。歩き始めてすぐに、日本四大関所跡の一つである国指定史跡「碓氷関所跡」の案内があったため、遊歩道を外れて見学しました。碓氷関所は五街道の一つである中山道上に1623年に設けられた関所で、1869年に廃関されました。関所跡の見学後、明治時代の碓氷線建設時に殉職された方を弔った招魂碑を見て元の遊歩道に戻ります。

碓氷関所跡
丸山変電所跡

 上信越自動車道の下をくぐると、レンガ造りの丸山変電所が見えてきました。丸山変電所は碓氷線旧線の電化に伴って明治44年に建てられ、国の重要文化財に指定されています。丸山変電所から1㎞ほど歩くと、霧積川を源泉にもつ弱アルカリ性の天然温泉「峠の湯」に到着しました。
 峠の湯を出ると、旧線上の遊歩道は新線跡と分かれ、トンネルが現れ始めます。トンネル内はとても涼しく、避暑地にきたような気分になりました。2つのトンネルを抜けると、左手下に紅葉の美しさで有名な碓氷湖が見え、さらに3つのトンネルをくぐると、旧碓氷線のシンボル、めがね橋の上を渡り始めます。明治25年に完成した202万8000個のレンガで造られためがね橋は、日本最大級の4連アーチ式鉄道橋です。めがね橋を降りて、道路上から見上げると圧巻の美しい姿を見せてくれました。
 めがね橋を渡った直後の6号トンネルはアプトの道上にあるトンネルで最も長い、500mを超えるトンネルです。途中に工期短縮のために横からも掘り進められた跡と言われている横坑や、排煙のための穴が開けられています。さらに4つのトンネルを抜けると、新線跡と合流し、横川駅から約6㎞、アプトの道の終点旧熊ノ平駅に到着します。

めがね橋
穴が開いているトンネル
旧熊ノ平駅

 旧熊ノ平駅は横川駅と軽井沢駅の間にSLの給炭給水所を設けるために設置され、のちに駅に昇格しました。新線切り替え後の昭和41年に信号場へと降格され、平成9年の廃線と共に完全に役割を終えました。現在でも線路や架線柱、変電所跡、ホーム跡が見られ、駅として活躍した時代の名残を感じることができました。
 旧熊ノ平駅からアプトの道を折り返し、横川駅方面へと向かっていると、行きよりも足取りが軽くなっていきました。上り坂では急な坂だとあまり認識できませんでしたが、下り坂になるとどんどん足が進んでいくので、急な坂に鉄路があったことを肌で感じ取れます。記者は帰り道の途中で峠の湯に立ち寄り、温泉に入浴しました。入浴によって、10㎞弱のハイキングの疲れが癒やされ、残り2㎞強の道のりも軽く感じられるようになりました。
 横川駅に到着したのは午後5時すぎで、合計所要時間は約6時間のハイキングになりました。アプトの道は整備されているので気軽に探訪できますが、歩く際はウォーキングシューズを履き、念のため害虫よけ・熊対策をしましょう。また、アプトの道内のトンネルの照明は午後6時で消灯されてしまうので、要注意です。碓氷峠鉄道文化むら~峠の湯まではトロッコ列車が走っているので、全部を歩く自信のない方も散策できます。碓氷線の歴史、勾配の大きさ、明治時代の土木技術、自然を肌で感じ取れるハイキングに出かけてみるのはいかがでしょうか。(ベース)

旧熊ノ平駅には新線2つ旧線1つのトンネルがある
トンネルを進んでいく

※参考文献/廃線跡ウォーキング東日本JTBパブリッシング

関連記事

  1. 街に眠るSLに会いに行こう
  2. 関所をひかえた宿駅として、たいそう栄えた「松戸宿」
  3. 斜面林
  4. 引退間近の西武レッドアロー号に乗車&安比奈廃線 探訪の旅
  5. 祝!20周年
  6. 「大回り」より気軽?「中回り」鉄道の旅!
  7. 東西南北の端!高い低い!難読駅!~都区内編~
  8. 上本郷館の主だった風早四郎は何者か!?

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

おすすめ記事

  1. 2026年10月23日(768号)
  2. UKIUKIウォッチング
  3. 月待塔―――月を待ち、祈りを刻んだ人々の石碑
  4. 石碑めぐり 282
  5. これ食べたい!

おすすめ記事

2026年10月23日(768号)

2026年10月23日(768号)【今号掲載の記事】■1面特集:月待塔…

おすすめ記事

  1. 2026年10月23日(768号)
  2. これ食べたい!
  3. 石碑めぐり 282
PAGE TOP